その1 アボカド蛍光指紋と励起光源
アボカド熟度測定方法として①反射蛍光測定法②赤外画像欠陥測定法③非破壊インピーダンス測定法を行っていますが、 ①については、1年以上続けているので、この辺でひとまとめておきたいと思います。
まず、アボカドに限らず植物が持つ防衛物質のクロロフィルとカルテノイド濃度の反射蛍光法による測定例とUV光源を使用する先行論文について紹介します。
まず、アボカドの蛍光指紋と励起光源の関係について示します。分析業者に依頼してもらって測定したデータです。縦軸が励起光源波長で横軸が蛍光波長です。蛍光は励起光よりエネルギー的に低いので、45°線(赤い破線)より下の領域に現れます。
300~400nmはアミノ酸、450~550nm付近はカロテノイド、650~800nm付近は、クロロフィルの蛍光です。ピーク比を使って成分量を推定することができます。
アボカドに限らず、植物にはファイティングマテリアルとして、カロテノイドやクロロフィルが含まれています。クロロフィルは、ロッテのグリーンガムに含まれ、食後の口臭対策や口内殺菌効果があります。アボカドの場合は、緑色の時期にクロロフィルが紫外線や細菌から身を守ります。茶褐色に変色したあたりから、カロテノイド(クロロフィルの一部が分解されてカロテノイドに変化することもあるようです)が、抗酸化や細菌によるカビの発生を抑えているようです。励起光源波長を変えて、アボカド表皮から出てくる反射蛍光の分布を示したものを蛍光指紋(2D表示)と呼んでいます。分析業者の高価で大きな測定装置を使わずに、励起光波長を固定して、マイクロ分光器を使ってもカロテノイドやクロロフィルの反射蛍光ピークを捉えることができます。
クロロフィルの吸収プロファイルと蛍光プロファイルの文献データを示します。熟度測定には、吸収スペクトルを利用する場合(スイカやトマトなど光を透過する)ものと蛍光スペクトルを利用する場合(アボカドなど大きな種がある場合)があります。成分固有の吸収ピークと蛍光ピーク波長は異なります。
クロロフィル濃度は、685nmと740nmの蛍光ピーク比から推定できます。
同じく、カロテノイドの吸収プロファイルと蛍光プロファイルを示します。
クロロフィル、カロテノイドどちらも400nm付近に吸収のピークがあります。一般的に、Soret band(400nm付近)と呼ばれ、動植物の組成に関する多くの情報が得られる波長領域のようです。この領域を使って、アボカドの熟度を評価した先行論文として、中国研究機関でLin等の報告があります。(2020年)
UV光源を励起光に使用したLin等は365nmと405nmがカロテノイドとクロロフィルの反射蛍光測定に適しており経時変化でのバラツキが少ない405nmが最適と報告しています。
その2 365nm光源の追試
Lin論文の追試のお話をします。Lin等の結論では、365nmのUV光源がバラツキが少なく550nm,685nm,740nmのピークを捉えるのに適してるということでした。365nm光源の測定装置を試作しました。
液晶表示を追加して、Lin指標T1~T4を表示できるようにしました。マイコンはArduinoNanoで分光器センサと液晶モニターを接続しています。
ところが、Lin論文での追試は上手くいきませんでした。クロロフィルの2ピークの
検出が困難でした。365nmと450nmを使えば3つのピークを捉えられると思いますが、定量化の基準が685nmのピークであり、複合光源では光源成分比で基準が曖昧になります。徹底追試を行うため、UV光源365nm,375nm,385nm,395nm,405nm,415nmの6種類を準備し測定を行いました。光源を簡単に取り換えられるように工夫しました。
測定結果を示します。クロロフィルの2つのピークを検出するためには長波長側光源が有効ですが、カロテノイドのピークを検出するためには短波長側光源が有効です。帯に短かし襷に長しですね。
その3 反射蛍光による熟度判定装置
UV光源では、カロテノイドとクロロフィルの3つのピークを同時に測定することが難しいことから、クロロフィル蛍光励起のため450nmの可視光を使用しました。また、光源波長裾野に埋もれるカロテノイド550nm波長を取り出すため、分光器窓に光源光を遮断するロングパスフィルターを取り付けることにしました。
ロングパスフィルター有無の蛍光プロファイルの比較結果を示します。
開発したSP450Sを示します。SP395をベースに、光源を450nm砲弾型LED4個を
分光器窓と同時軸に配置し、外光遮蔽のフードを設け、分光器窓にロングパスフィルターを配置しています。
A1(クロロフィル指標)とA2(カロテノイド指標)を、早熟・適熟・過熟と判断されたアボカド600個について測定した結果を示します。A1,A2指標を使えば熟度判定が可能と思われます。
その4 通信機能の追加(IoT化)
プロト機でサンプル評価や閾値決定を行ってきましたが、実際の作業を行う上で指標表示だけではなく、指標データを保存し・表示したいとのご要望を頂きました。
色ランプ表示機能追加はそれほどバーは高くないですが、ハンディタイプとして開発したものに通信機能を追加するには、少し厄介でした。
DATA通信機能をと言われても測定対象のIDはどうするのとか決められていないためタイムスタンプを付加したA1,A2値を保存し測定ボタンを押したときのデータを表示するものとしました。データ送信のタイミングは、ボタンを押すことで同期をとることにしました。データが確かに送信されたかはインジケータを付加することで確認することにしました。通信方式は、2とおりを検討しました。測定装置側には送信機だけを取り付け受信側にデータを蓄える方式と測定機側にデータを保存しWEBサービスする方法です。それぞれの通信は、LoRaとWiFiを選択しました。
最終的にはハンディタイプなのでLoRaを採用したいと思いましたが、測定装置にラズパイWHを接続してWEBサービスする方法も考えられ両方を検討しました。
A1,A2指標データを取り込むために押し釦を設置しました。A1,A2は0.5秒間隔で更新されるため、タイミングを取る必要があります。白ランプを付加しデータを確保したことをユーザーに知らせます。
本体に押ボタンとデータ取得確認インジケータ機能を追加しました。ArduinoNanoが基板実装されているためヘッダーピンに直接半田付けを行うという年寄りにはきつい作業を行いました。
通信方式選定のため試作した据え置き型プロト機の構造を示します。箱の上部にSP450S本体を配置します。底部にUSB接続したラズパイを設置しました。ラズパイでNode-REDを動かしますのでラズパイによるWiFi通信はルーター経由です。データはラズパイ本体に保存します。一方、SP450Sと同じく上面に配置したLoRaユニットは、専用の送信受信(PC側が受信機)を行います。両方の通信方式が検討できるように筐体に組み込みました。
まず、ラズパイを使ったWiFiによる通信方式です。測定装置からのデータはUSB接続したラズパイに吸い上げられラズパイ上でNode-RED(WEBサーバ)が動きます。Windows-PCからはIPアドレス経由でラズパイのWEBサーバーを見ることができます。
次に、LoRaによる通信方式です。測定したデータは送信機から送信され、LoRa受信機を接続したWindows-PCに直接保存されます。Windows-PCには
ラズパイと同じNode-RED(WEBサーバ)を動かしています。
ハンディ型で電力消費を考えると、LoRa送信機のみを付加し、受信するPC側
でWEBサービスする方式が妥当だと思いました。