インピーダンス測定による味覚分析

2024年技術ブログ集

その1 インピーダンスによる味覚分析

トランジスタ技術(2023年12月号)にNanoVNAを使って果物のインピーダンスを測定する記事がありました。記事に興味が湧き追試試験を行ったり、非俳諧プローブに展開したり応用分野を広げようと検討してきました。追試と課題抽出は、https://twinkletec.org/2024/04/01/vector-network-analyzer/ 、非破壊プローブでメロンの熟度測定を試みました。https://twinkletec.org/2024/05/01/nanovna-impedance/ 今年の締めくくり第3弾として味覚分析に挑戦してみました。甘味、辛味、酸味、苦味、旨味の5味と無味の6種類のインピーダンスを学習させ分類モデルを作ってみました。分類確率を表示することで味覚分析みたいなことができるのではないかと思い実験しました。前回製作した液体のインピーダンス測定システムを再活用しました。

機械学習のためのデータ収集サンプルは、5味溶液として測定可能な粉末原料を集めました。また、ペットボトルで販売されている天然水を無味サンプルとしました。各味粉末サンプルは、天然水で溶かし10wt%の原液を作りました。

インピーダンス測定レンジは、1~1000MHzの10MHz間隔で101個の絶対値データを抽出します。101個の周波数でのインピーダンス値が機械学習の特徴値(パラメータ)となります。まず、苦味成分のコーヒー溶液2,5,10%と天然水(無味)のインピーダンスグラフを示します。濃度が低くなると無味波形に近づきました。

酸味は、氷酢酸水溶液で2,5,10%です。天然水(無味)波形と比較しました。170MHz付近に特徴的な凹型ピークが見られました。

辛味(塩味)は、食塩水溶液2,5,10%と天然水(無味)波形を示します。食塩水は導電性で10%水は極端にインピーダンスが低下しています。

甘味サンプルは、キビ糖の水溶液2,5,10%です。天然水(無味)波形と併せて表示しました。糖成分は導電性ではないため導電性溶液に比べインピーダンスに大きな変化は見られませんが、900MHz以降で大きな濃度変化を示しました。

旨味は、ハイミー顆粒を使用し、2,5,10%溶液を作りました。ハイミーには、グルタミン酸とアスパラギン酸が含まれています。ちなみに味の素はアスパラギン酸が少なめなので価格は1/5です。アミノ酸は導電性かは不明ですが、10%溶液は強い導電性を示しました。

最後に無味としている天然水です。「いろはす:mizu1」と「サントリー天然水:mizu2」のインピーダンスを示します。ほぼ同じ波形でした。

その2 味覚データの機械学習モデル 

5味+無味のインピーダンスプロファイルを学習データとして、ラベル0~5を付けて機械学習を行いました。各溶液は2%,5%,10%の3データと天然水は2データを使用しました。(101×17)機械学習に使用するデータのグラフを示します。500MHz以下の領域での変化が大きく、500MHz以下の領域に限定すべきか悩みましたが、モデルを作ってみてびっくり500MHz以降の周波数データの方が分類に有効であることが後に判りました。

分類ラベルを追加した、機械学習用データ(ML6Y.csv)を示します。

分類モデルには、「RandomForest」を使用しました。「ML6Y.csv」を読み込み学習モデル「modelY.pickle」を出力するまでのプログラムコードを示します。

プログラムの途中にRandomForestでの感度解析を行っています。その結果を次に示します。

説明変数は、1~1000MHzの10MHzごとのインピーダンス値、101個です。感度解析グラフと上位30個の説明変数の重みを示します。結果、上位10はいずれも500MHz以上の領域でした。モデル精度は全データを使って予測すると精度R2=1でした。ランチャートでも予測ハズレはありませんでした。

次は、任意の溶液の測定データを使った味覚分析について説明します。分類確率を使用します。

その3 分類確率の抽出と味覚分析 

5味+無味(0~5の分類ラベル)では、一番近い分類をするだけなので実用的ではありません。辛味と旨味が混ざっているような味を判定するような場合があるので分類確率を使用することにしました。推論確率を表示するプログラムコードを示します。
2種類の棒グラフを出力します。まず味の濃い薄いを示すため、天然水確率を入れた
6本の棒グラフ(合計確率=1で規格化)を表示します。天然水(無味)の色は青色で、阿古色が大きい場合は味が薄いことが判ります。もう一つは、5本の棒グラフで(5味比率)を表現するものです。

まず、2種類の天然水のグラフを示します。薄さを示す青色の比率が大きいです。

甘味については、キビ糖の2%と5%のグラフを示します。濃度により味の濃さが変化するのか、濃度が小さくても分類確率が同じようなの結果を出力するのかを確認しました。6本グラフでは5%に比べ2%は水っぽさが増していること、5本グラフでは濃度に依存せず略甘味確率が大きいことが判りました。

辛味については、2%と5%で濃度により味の濃さが変化は見えず、水っぽさは見られませんでした。5本グラフでは辛味確率が大きいことが判りました。

酸味については、2%と5%で、2%濃度では少し水っぽさが見られました。5本グラフでは酸味確率が大きいことが判りました。

旨味については、2%と5%では、水っぽさが見られませんでした。5本グラフでは旨味確率と苦味確率が大きいことが判りました。

苦味については、2%と5%では、水っぽさが見られませんでした。5本グラフでは苦味確率が大きいことに加え、旨味、酸味確率も大きいことが判りました。

5味+無味の分類確率を使うことで、味覚分析が出来そうな感触が得られました。

その4 味覚分析システムの開発(GUI化) 

以前、nanovna.pyライブラリを使用して、NanoVNAの測定システムを作りました。今回は、測定データをそのまま使用して味覚分析を一気通貫で行えるシステムを開発しました。プログラムコードは割愛しますが、GUI操作方法を説明します。まず測定手順①~④です。

次に測定データを味覚分類学習した[modelY.pickle]を読み込み推論します。推論した分類確率をIntensity_taste(味覚の濃薄)グラフと5-tasttes(5味分解グラフ)を表示します。操作は⑦~⑩の手順で行います。

実際の溶液状食物の味覚分析を行いました。まず、やかんの麦茶です。味は薄いのですが、甘味があるようです。

低糖分の乳酸菌飲料の分析を行いました。味は十分濃いようです。甘味は低糖のため抑えられています。辛味は少なく、酸味、旨味、苦味の成分が強いようです。

濃縮還元の無添加トマトジュースの分析を行いました。味は十分濃いようです。無添加だけに塩分(辛味)や甘味は少ないようです。酸味。旨味。苦味の成分が多いようです。

インピーダンス測定データを使った味覚分析を溶液サンプルで行いました。予想以上に良好な結果が得られました。今後、非破壊プローブでの応用を考えたいと思います。

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