その1 カゴメのベジチェックについて
糖尿病予備軍と言われて通院しています。保健指導では野菜中心の食生活を勧められています。2月に1回の血液検査でコレステロール値の改善が見られましたが微妙です。カゴメのベジチェックは野菜を食べて蓄積された体内のカロテノイドを測定しているようです。手のひらを1分間、光学センサーに乗せておくだけで野菜の摂取量が判るようです。以前、アボカドの蛍光測定でクロロフィルとカロテノイドの測定を行いました。人の体に適用した場合、どうなるのか検証してなく興味が湧きました。まず、原理を調べました。
ベジチェックは色々な企業さんと連携して、統計データを収集しているようです。装置の販売はしてなくレンタルを行っているようです。
ベジチェックの開発者であるカゴメの菅沼さんの論文を見つけました。従来からカロテノイド測定は血液を使って行われていましたが、皮膚に蓄積されたカロテノイドと血中
カロテノイドには相関があり、体中のカロテノイドを皮膚で測定できることを示しています。
皮膚のカロテノイド測定でメタボリックシンドローム指標を推定できるため、非侵襲な方法での健康管理が可能です。しかし、過去にも同じように皮膚中のカロテノイド測定が試みられていたようです。色識別は精度が良くなくRSS法は機材が大きくハンディな
測定に向かなかったようです。
皮膚カロテノイドをマイクロ分光器を使って測定することにしました。ベジチェックは、450±10nmの青色LEDを使っています。反射光はラマン散乱により15nm長波長側(低エネルギー側)の光を465±7nmのバンドパスフィルターを介して受光素子に取り込む方式です。光源光が450nmの可視光では、皮膚内部への侵入長も大きくRRS法で懸念していた皮膚深部のほかの成分のコンタミ影響が避けられません。
新方法は侵入長が短いUV光源を使用して、コンタミを防止することとバンドパスフィルターではなく波長分解能の高いマイクロ分光器を使うことでより高精度な測定が可能だと思います。
また、私が本当に知りたいことは、「血中カロテノイドと皮膚に蓄積されたカロテノイド」に相関があるから皮膚カロテノイドを測るベジチェックは体全体のカロテノイド(野菜摂取量)量を予測できるという仮説です。血流は脈拍に同期しています。厳密にいえば、「血液中のカロテノイドの時間平均分」と「皮膚に蓄積されたカロテノイド」の総和を測定しているのではないかということです。今回、マイクロ分光器でダイナミック測定(120mSecで波長スキャン)を使って心拍同期成分(血液中カロテノイド)を分離測定してみたいと思いました。
その2 生体ダイナミック測定装置の光学ユニット開発
侵入長が短い紫外光源を2種類準備しました。UVAの385nm光源とUVCの275nm光源です。UVC光源は以前は数万円していましたが、共立電子で一桁安く購入することができました。殺菌などに使用するため、目に入ると危険です。300nm以下のUVC光源は、アミノ酸(旨味成分)等の蛍光検出に使われています。
皮膚で実験する前に、UVAやUVC光源がアミノ酸の検出にどれだけ有効か確認することにしました。野菜が原料のトマトケチャップとウスターソースの蛍光プロファイルを測定しました。
UVA(385nm)光源では、550nm付近に緩いピークが出てきます。これはアボカドの蛍光測定でも得られたカロテノイドピークです。UVC(275nm)光源では、510nm付近に
ピークが出ます。これもカロテノイドピークですが、信号レベルが小さくノイズを多く含んだ波形となっています。
ケチャップやウスターソースは野菜が原料ですが、動物系のチーズやハムの蛍光プロファイルも測定してみました。チーズは牧草を食べて牛から作った乳製品です。ハムは植物食の豚の肉から作ったものです。カロテノイドが体に蓄積されていればソースやケチャップと同じようにカロテノイドを検出できると思います。
UVA(385nm)光源では、550nm付近にはっきりとしたカロテノイドピークが出てきます。また、UVC(275nm)光源では、510nm付近のピークは微弱ですが、350nm,380nm
に、ソースやケチャップでは見られないピークが現れました。これは、動物性の旨味成分(アミノ酸)だと思います。また、UVCでの蛍光の信号レベルはソースやケチャップに比べ強くなっています。
では、人の手のひらはどうなるのかを測定しました。UVA(385nm)では、550nm付近に2つのピークが現れました。550nmと600nmです。これは人特有のピークです。
また、UVC(275nm)では、510nmのカロテノイドピークに加え360nmにピークが見られました。動物系なのでUVAにもUVCでも明確なピークが検出されました。
その3 野菜ジュース摂取前後の蛍光波長測定
毎朝、私は野菜ジュースを飲み、妻はトマトジュースを飲んでいます。飲む前に、蛍光プロファイルとカメラ動画を測定し、30分後に再度傾向と動画を測定しました。10秒間の手のひら動画は白色光源で撮影し色分解法を試すために行いました。
UVA(385nm)では、550nmと600nmの2山のピークが現れ、before/afterでピークは若干高くなっているようです。プロファイル測定は120msecX10回の平均値を使っています。1.2秒の平均値ですので、心拍影響は平均化されて消えていると考えてください。
UVC(275nm)では、510nmのカロテノイドピークと360nmピークが見られました。
信号強度はチーズやハム等より弱いことがは確認できました。UVCはUVAに比べ手のひらの情報は得にくいと思われました。
UVA(385nm)の蛍光プロファイルを拡大しました。550nmのピークが摂取前後で増加していることが判りました。女性の方が変化が大きい傾向があります。ピークの増加は8%に達しています。ベジチェックの論文でも基礎的な体内カロテノイド蓄積量は女性の方が大きいようで何か女性特有のメカニズムがあるのかもしれません。
また、文献では皮膚への蓄積が確認できるのは2週間後とのことでしたが、カロテノイドの増加は摂取後30分で観察されました。
UVC(275nm)では、510nmのカロテノイドピークに変化はありませんでした。360nmのピークは男性で増加、女性で減少しています。信号強度が弱く誤差なのかもしれません。
その4 手のひら動画の色分解解析
白色光源を光源に使用し、手のひらの動画を約67msec間隔で10秒間、150枚の画像を測定しました。この後説明するマイクロ分光器のスキャンスピード(120msec)の2倍近い速度です。カロテノイドの色として青色と黄緑色付近の信号を捉えるため、RGBのB成分を抽出し画面全体で積分したB成分信号時系列信号を表示しました。明らかに心拍と同期しています。また、G成分比/B成分比空間で時系列に現れた150点のプロットを行いました。B成分比は心拍と同期しています。分布は2極に分かれますが、摂取前後で重心位置はB成分が上昇しています。この方法もある意味有効だと判りました。
女性の場合も心拍に同期した信号が得られています。GB空間では、男性のように2極に分かれていませんが、摂取前後での重心は男性の場合と同じくB成分上昇方向に移動しています。B成分比をカメラで抽出する方法はカロテノイド測定に有効かもしれません。
その5 マイクロ分光器を使ったダイナミック測定
白色光源を光源に使用し、手のひらの動画を約67msec間隔で10秒間、150枚の画像を測定しました。この後説明するマイクロ分光器のスキャンスピード(120msec)の2倍近い速度です。カロテノイドの色として青色と黄緑色付近の信号を捉えるため、RGBのB成分を抽出し画面全体で積分したB成分信号時系列信号を表示しました。明らかに心拍と同期しています。また、G成分比/B成分比空間で時系列に現れた150点のプロットを行いました。B成分比は心拍と同期しています。分布は2極に分かれますが、摂取前後で重心位置はB成分が上昇しています。この方法もある意味有効だと判りました。
ダイナミック測定のプログラムを説明します。約120msecで、340~850nmのレンジで波長プロファイルをスキャンします。これまでのプロファイルデータは、10回スキャンした積分値を使用していますが、ダイナミックスキャンでは1loopのデータを使用するのでノイズが多く含まれます。10秒で83本のプロファイルをダンプファイルに書き込みます。
解析プログラムでは、特定の波長データ(ピーク波長等)を指定して取り出し、時系列グラフを表示します。
UVA(385nm)での、ダイナミック解析結果を示します。カロテノイドに関係する550nmと600nmの波長の時間変化と比較のためピークでない700nmの波長の時間変化を示しました。700nmはBGレベルで変化量は少ないですが、550nm,600nmは心拍と同期しています。心拍変動はピーク全体の±2%程度で微小ではあるものの皮膚蓄積カロテノイドと違う血流に含まれるカロテノイドの時間変化を捉えることができました。厳密には血液中のカロテノイド量を補正すべきだと思います。ベジチェックは
補正は補正はできてないと思います。その分が誤差に反映されていると思われます。
最後にUVC(275nm)でのダイナミック解析結果を示します。カロテノイドに関係する510nmはUVAの場合と同じく心拍と同期しています。360nmの動物系起因のアミノ酸のピークもオン軸心拍同期が見られます。血液を介したカロテノイドやアミノ酸成分のピークであることが判ります。
今回、UV光源とマイクロ分光器によるカロテノイド蛍光の直接測定方法を検討しました。また、ダイナミック測定により皮膚蓄積カロテノイドと血液中カロテノイドの分離評価が可能なことが判りました。実用化するためには検量が必要です。ベジチェックを製品化するために非常にぽくの統計データがとられたことは頭が下がります。
UV光源+マイクロ分光器システムで検量作業を同じように行うことは現実的ではありません。方法としては、ベジチェックをレンタルし判定データに本システムを合わせこむ方法が合理的と思われます。やる予定はありませんけど…